財政の記事で、前橋市の将来負担比率55.5%が県内5市で最も高いことを示した。高崎の1.35倍である。
そして「この数字からは、何に使ったかは分からない」と書いた。歳出の内訳を取った。
25年分を並べると、市の性格が変わった年が特定できた。2001年度である。
2001年度に民生費が土木費を上回った。以降、一度も戻っていない。
民生費は2000年度の200.6億円から2024年度657.5億円へ3.28倍。土木費は241.7億円から156.2億円へ0.65倍。歳出に占める民生費の割合42.5%は5市で最も高い。
住民1人当たりで高崎と比べると、人件費・扶助費・普通建設事業費はほぼ同じ。差がつくのは公債費1.20倍と補助費等0.74倍。
対象範囲
2022年度までは総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」D行政基盤(統計表ID 0000020104)、2023年度と2024年度は総務省「市町村別決算状況調」による。どちらももとは各自治体の普通会計決算で、2022年度の値は両者で全項目が一致することを確かめた。人口は住民基本台帳人口(翌年1月1日)を使った。
最新は2024年度(令和6年度)である。歳出決算総額は1980年度から取れるが、目的別・性質別の内訳は2000年度からしか収録されていない。この記事の時系列は2000年度以降になる。
歳出には2つの分け方がある。目的別は何のために使ったか(民生費、土木費、教育費など)、性質別は何として支払ったか(人件費、扶助費、普通建設事業費など)である。同じ支出が両方に計上される。
| 費目 | 分類 | 主な中身 |
|---|---|---|
| 民生費 | 目的別 | 社会福祉費、老人福祉費、児童福祉費、生活保護費など。福祉に関する支出全般 |
| 土木費 | 目的別 | 道路橋りょう費、都市計画費、住宅費など。都市基盤の整備と維持 |
| 公債費 | 両方 | 地方債の元利償還。過去に借りたものの返済 |
| 扶助費 | 性質別 | 生活保護、児童手当、医療費助成など、法令や条例に基づく現金・現物給付 |
| 普通建設事業費 | 性質別 | 道路、学校、庁舎などをつくるための投資的な支出 |
構成比、1人当たり額、倍率は当サイトが算出した。公表値ではない。
2001年度に、民生費が土木費を上回った
2000年度の前橋市は、土木費241.7億円が民生費200.6億円を上回っていた。福祉より道路や都市計画に多く使う自治体だった。
翌2001年度に順位が入れ替わる。民生費236.5億円、土木費210.9億円。以降2024年度まで、一度も戻っていない。

差は開き続けた。2024年度は民生費657.5億円、土木費156.2億円で4.2倍になっている(2022年度は3.7倍)。
24年間の変化率で見ると、民生費3.28倍、土木費0.65倍。教育費は1.35倍、公債費は1.27倍だった。大きく増えたのは福祉で、教育と過去の借金の返済も増えた。
なお2021年度に民生費が633.9億円まで跳ねているのは、新型コロナ対策の給付を含むためである。2022年度は588.1億円に下がったが、2023年度617.1億円、2024年度657.5億円と増え、2021年度を上回った。
高崎と比べて差がつくのは、公債費と補助費等
歳出の総額は、前橋1,546.2億円、高崎1,770.5億円。人口が違うので、住民1人当たりで比べる。
1人当たりの歳出総額は前橋469,794円、高崎483,784円。前橋が13,990円少なく、0.97倍である。2022年度は差が718円でほぼ同じだったが、高崎が増えて差が開いた。

性質別に分けると、どこで違うかがはっきりする。人件費は前橋69,581円・高崎67,947円で1.02倍、扶助費は131,251円・129,068円で1.02倍。職員に払う額も、住民に配る額も、ほぼ同じである。
2022年度に1.33倍あった普通建設事業費は、前橋57,344円・高崎58,099円で0.99倍になった。高崎が42,211円から58,099円に増え、差がなくなった。残る差は公債費で、前橋45,656円・高崎37,925円の1.20倍。
逆に補助費等は0.74倍で、前橋のほうが少ない。
県内5市のなかでの位置
目的別の構成比を5市で並べる。

前橋は民生費42.5%と公債費9.7%が、どちらも5市で最も高い。公債費は桐生5.9%の1.6倍である。土木費10.1%は太田10.4%に次ぐ2番目で、2022年度の5市最高(10.2%)から順位が下がった。
民生費42.5%は5市で最も高い。2022年度は37.8%で5市の3番目だったが、2年で4.7ポイント上がった。最も低いのは桐生33.6%。前橋の民生費の割合は、5市で最も高くなった。
教育費11.6%は5市で4番目。2022年度の8.9%(5市で最も低い)から上がり、最も低いのは高崎11.0%になった。太田14.6%との差は3.0ポイント。1人当たりでは前橋54,501円に対し太田63,420円で、1.16倍の開きがある。
この数字をどう読むか
ここから先は解釈である。事実は上に書いたとおりで、以下はこの数字を前橋の他のデータと重ねたときに何が言えるかという話になる。
将来負担比率が高い理由は、ここにある
財政の記事で残した宿題に答える。将来負担比率が高崎より高い理由は、1人当たりの公債費が1.20倍という構造にある。2022年度は普通建設事業費も1.33倍だったが、2024年度は0.99倍で差がなくなった。同じ2年で高崎の将来負担比率は29.5%から41.0%に上がっている。
普通建設事業費は道路や施設をつくる支出で、その財源の多くは地方債である。造れば借金が増え、あとから公債費として返す。前橋はいまも造り続けていて、同時に過去の分を返している。いま高崎と差があるのは、返す側である。
ただし造る額は減っている。普通建設事業費は2000年度284.2億円から2024年度188.7億円へ0.66倍になった。ピークは過去にあり、その返済が残っている。
公共施設の記事で、前橋の公共施設を維持するには年151.5億円が要り、年67.9億円足りないことを示した。
「同じ額を、違う配分で使っている」
1人当たりの歳出総額は前橋469,794円、高崎483,784円で、差は3%ほどだった。人件費も扶助費も普通建設事業費もほぼ同じ。使える額も、住民への給付も、大きくは変わらない。
違うのは配分である。前橋は返済に多く、高崎は補助費等と衛生費に多い。衛生費は1人当たり前橋29,735円・高崎58,804円で、高崎が1.98倍である。
衛生費が少ないこととごみの量は別である。ごみの記事で、前橋の1人1日当たり排出量874.6グラムが県内5市で最も少ないことを示した。
事業所数の記事で、前橋の民営事業所が高崎の1.1倍なのに求人は1.4倍だと示した。通勤先の記事では周辺自治体すべてから受け入れ超過であることも見た。県庁所在地としての機能を支える基盤に、配分が向いている可能性はある。ただしこの数字だけでは、何を造ったかまでは分からない。
教育費が5市で最も低かったことの読み方
2022年度の教育費の構成比8.9%は5市で最も低く、1人当たりでも太田との開きが1.7倍あった。2024年度は11.6%に上がり、開きも1.16倍に縮んだ。単年度の割合だけで「教育に金を使っていない」とは読めない。
教育費には校舎の建て替えなどの建設費が含まれる。校舎の更新時期にあたる自治体は、その年の教育費が大きく膨らむ。太田市の普通建設事業費は構成比14.0%で桐生19.0%に次ぐ5市2位であり、教育費の高さと関係している可能性がある。
子育ての記事で、前橋の保育定員が1,412人分空いていることを示した。支援制度の記事では、市立小中の給食費が無償であることも見た。給食費の無償化は民生費や教育費のどちらに入るかで見え方が変わる。費目の割合だけで施策の手厚さは測れない。
家庭が負担する側は教育費の記事で扱った。幼稚園から高校までの15年で、すべて公立なら617万円、すべて私立なら1,971万円。大学まで含めた19年の積み上げは、公立から国立・自宅通学で860万円、私立から私立・下宿で2,681万円と3.12倍の開きがある。
歳出と対になる歳入は歳入の記事で見ている。前橋の地方税の割合34.4%は5市で3番目で、1人当たりでも3番目である。2022年度は割合と1人当たりで伊勢崎との順序が逆だったが、2024年度は同じ順になった。
社会教育費の記事で、前橋の社会教育費が2024年度に市民1人当たり5,665円で、県内5市で最も少ないことを示した。
2001年度の逆転は、前橋だけの話ではない
民生費が土木費を上回る動きは、全国の自治体で同じ時期に起きている。介護保険制度は2000年度に始まり、高齢化は全国で進んだ。公共事業は削減の方向に向かった。
この記事で示したのは、その転換が前橋では2001年度に起きたという事実である。他市との比較は今回のデータでは行っていない。
高齢化率の記事で、前橋の高齢化率が2050年に39.7%まで上がることを示した。将来人口の記事では18%減という推計も見た。民生費が増え続ける前提と、支える人が減る前提が同時にある。
このデータの限界
- 2022年度までは社会・人口統計体系、2023年度と2024年度は市町村別決算状況調の値である。2022年度で両者の全項目が一致することを確かめてつないだ。
- 目的別・性質別の内訳は2000年度からしか収録されていない。それ以前の配分は分からない。
- 構成比、1人当たり額、倍率は当サイトが算出した値である。公表値ではない。
- 1人当たりの算出には住民基本台帳人口(翌年1月1日)を使った。国勢調査人口は毎年の値がないためである。分母の定義が異なると数値も変わる。
- 普通建設事業費が何を造ったものかは、この統計からは分からない。個別の事業を見るには市の決算資料が必要になる。
- 費目の区分は自治体の会計処理によって差が出る。同じ施策でも計上される費目が異なる場合がある。
- 2020年度の総務費と2021年度の民生費は、新型コロナ対策の給付により一時的に膨らんでいる。
- 普通会計決算に基づくもので、公営企業会計は含まれない。
よくある誤解
「前橋は箱物にお金を使いすぎている」
普通建設事業費は1人当たりで2022年度は高崎の1.33倍でしたが、2024年度は0.99倍でほぼ同じです。額そのものも2000年度の284.2億円から2024年度188.7億円へ0.66倍に減っています。いま使いすぎているというより、過去の分の返済が公債費として残っている構図です。
「民生費が増えたのは福祉を手厚くしたから」
制度の変化と高齢化の影響が大きいと考えられます。介護保険制度は2000年度に始まり、以降の民生費を押し上げました。前橋の民生費の構成比は2024年度に42.5%で5市で最も高くなりましたが、2022年度は37.8%で3番目でした。割合は年度で動き、割合だけで手厚さは測れません。
「教育費の割合が低いから教育を軽視している」
前橋の教育費の構成比は2022年度は8.9%で5市で最も低い値でしたが、2024年度は11.6%で4番目です。教育費には校舎の建設費が含まれるため、更新時期にあたる自治体は一時的に大きく膨らみます。また給食費の無償化のような施策が、どの費目に計上されるかでも見え方が変わります。費目の割合だけで施策の手厚さは測れません。
Q&A
目的別と性質別はどう違うのですか
同じ歳出を別の切り口で分けたものです。目的別は「何のために使ったか」、性質別は「何として支払ったか」です。たとえば保育所を建てる支出は、目的別では民生費、性質別では普通建設事業費に入ります。どちらも合計すると歳出総額になります。
扶助費と民生費の関係は
扶助費は性質別、民生費は目的別の費目です。民生費の多くは扶助費として支払われますが、民生費には職員の人件費や施設の建設費も含まれます。前橋の民生費657.5億円に対し扶助費は432.0億円です(2024年度)。
何を造ったのかは分かりますか
この統計からは分かりません。個別の事業まで見るには、前橋市が公表している決算資料や事業別の予算書が必要になります。稿を改めて扱えるか検討します。
歳入の内訳も分かりますか
分かります。同じ統計に歳入内訳24項目、地方税、地方交付税、地方債などが収録されています。この記事では歳出に絞りました。
次の更新はいつですか
年度次の統計です。2025年度分が公表され次第、更新します。
出典
- 総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」D行政基盤(統計表ID 0000020104)、A人口・世帯(統計表ID 0000020101)/e-Stat 地域統計
- 総務省「市町村別決算状況調」令和5年度・令和6年度(都市別)/総務省 地方財政状況調査関係資料
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| No | データ名 | 出典 | ダウンロード |
|---|---|---|---|
| ㉟ | 県内5市の目的別・性質別歳出 前橋市は2000〜2024年度の時系列 | 総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」D行政基盤(統計表ID 0000020104)、「市町村別決算状況調」 | CSVを保存 |
更新履歴
- 2026年9月24日 2024年度の決算に更新(結論を見直し)
- 2026年9月23日 関連する記事への内部リンクを追加
- 2026年9月6日 公開
