ここまで前橋の人口、仕事、家計を数字で見てきた。将来人口の記事では2050年に18%減という推計を、高齢化率の記事では39.7%まで上がる見通しを示した。
では、それを引き受ける市の財政はいまどうなっているのか。今回から市の財政を扱う。
45年分の数字を並べると、思っていたより長い話だった。
前橋市の財政力指数は0.77(2024年度)。ピークだった1987年度の0.98から下がり、1980年度の0.79を下回った。
全国1,718団体で254位、上位14.8%。群馬県内35市町村では8位。
将来負担比率55.5%は県内5市で最も高い。ただし高崎は2年で29.5%から41.0%に上がり、差は2.0倍から1.35倍に縮んだ。
対象範囲
2022年度までは総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」D行政基盤(統計表ID 0000020104)、2023年度と2024年度は総務省「市町村別決算状況調」による。どちらももとは各自治体の普通会計決算で、2022年度の値は両者で全項目が一致することを確かめた。
最新は2024年度(令和6年度)である。財政力指数は1980年度から、実質公債費比率は2008年度から、将来負担比率は2011年度から取れる。
使う3つの指標の定義を先に書いておく。
| 指標 | 意味 | 読み方 |
|---|---|---|
| 財政力指数 | 基準財政収入額を基準財政需要額で割った値の過去3年度平均 | 1.0を超えると、必要な経費を自前の収入で賄えるとみなされ、普通交付税を受け取らない不交付団体になる。高いほど自立度が高い |
| 実質公債費比率 | 借入金の返済額が標準的な財政規模に占める割合の3年度平均 | 18%以上で地方債の発行に許可が必要になる。25%以上で一部が制限される。低いほうがよい |
| 将来負担比率 | 地方債残高など将来支払う可能性のある負担額が、標準的な財政規模に占める割合 | 市町村は350%以上で早期健全化基準に該当する。低いほうがよい |
順位は当サイトが算出した。将来負担比率については、算定される団体だけを対象としている。将来負担額を充当可能財源が上回る団体は比率が算定されず、2024年度は全国1,718団体のうち919団体が該当する。
財政力指数は0.77。1980年度の0.79を下回った
前橋市の財政力指数は2024年度で0.77である(総務省「市町村別決算状況調」)。必要とされる経費の8割弱を、自前の収入で賄っている計算になる。
45年分を並べると、この0.77がどういう位置にあるかが分かる。

ピークは1987年度の0.98。あと0.02で不交付団体という水準だった。そこから下がり、2000年度0.85、2004年度0.78、2011年度と2012年度は0.76まで落ちる。
その後はゆるやかに戻し、2018年度から2020年度は0.82。そこから2021年度0.80、2022年度0.79、2023年度0.78、2024年度0.77と4年続けて下がった。45年かけて、出発点の0.79を下回った。
全国での位置を見ると、1,718団体中254位で上位14.8%にあたる。悪い順位ではない。財政力指数が1.0以上の不交付団体は全国で77団体しかない。
群馬県内では35市町村中8位。上位には太田市0.94、明和町0.93、大泉町0.92、高崎市と安中市の0.81が並ぶ。
借金の返済負担は下がった。2021年度以降は50%台
次に借金の指標を見る。実質公債費比率は2008年度の13.2%から2024年度の7.9%へ、5.3ポイント下がった。18%という基準からは十分に離れている。
将来負担比率はもっと大きく動いた。2011年度の96.6%から2024年度の55.5%へ、41.1ポイントの低下である。

ただし下がり方には段階がある。2011年度から2015年度にかけて96.6%から58.7%まで急速に改善したあと、2016年度から2020年度は64.6〜66.8%の間を行き来した。
2021年度に55.6%へ下がり、2022年度59.3%、2023年度57.6%、2024年度55.5%と50%台が続く。2024年度の55.5%は、算定が始まった2011年度以降で最も低い。
将来負担比率は5市で最も高い。ただし高崎との差は縮んだ
県内の主要市と並べると、前橋の位置がはっきりする。

財政力指数は4市で最も低いが、太田0.94との差は0.17、高崎0.81との差は0.04にとどまる。実質公債費比率7.9%は最も高いものの、基準の18%からは離れている。
差がつくのは将来負担比率である。前橋55.5%に対し、高崎41.0%、太田25.6%、伊勢崎7.9%。高崎の1.35倍、太田の2.2倍、伊勢崎の7.0倍にあたる(倍率は当サイトが算出)。2022年度は高崎の2.0倍だったが、高崎が2年で29.5%から41.0%に上がり、差が縮んだ。
市の財政とは別に、市民の手取りがある。実質所得の記事で、物価で調整した課税対象所得が34年前とほぼ同じ水準であることを示した。
桐生市は2018年度から2024年度まで、この比率が算定されていない。将来負担額を充当可能な財源が上回っているためである。
全国で見ると、前橋の55.5%は算定された799団体のうち233位(高い順)。県内35市町村では川場村126.7%、館林市81.9%、沼田市78.9%に次ぐ4番目である。早期健全化基準の350%からは大きく離れている。危険な水準ではない。
この数字をどう読むか
ここから先は解釈である。事実は上に書いたとおりで、以下はこの数字を前橋の他のデータと重ねたときに何が言えるかという話になる。
財政力の順位と、所得の順位がほぼ一致する
課税対象所得の記事で、前橋の納税義務者1人当たり課税対象所得375万円が全国1,742市区町村中234位、上位13.4%であることを示した。
今回の財政力指数は1,718団体中254位で上位14.8%。2つの順位はほぼ同じ位置にある。財政力指数の分子は基準財政収入額で、その大半は市町村民税と固定資産税である。住民の所得水準が、そのまま市の財政力に反映されている。
当たり前のようだが、確かめる価値はある。前橋の財政力が中位より上なのは、特別な財源があるからではなく、住民の所得が中位より上だからである。
製造品出荷額の記事で、前橋の出荷額が5,759億円で、群馬県に占める割合5.56%が人口シェア17.25%の0.32倍にとどまることを示した(2024年)。
1987年度のピークは、何だったのか
財政力指数0.98という数字は、いまから見ると別世界に見える。1987年度はバブル経済の入口にあたる。地価と所得が上がれば、固定資産税と市町村民税が増える。分子が膨らんで指数が上がった、と読める。
ただしこの指数は分母にも動きがある。基準財政需要額は人口や面積、高齢者数などで算定されるため、行政需要が増えれば分母が大きくなり指数は下がる。0.98から0.77への低下が、収入の減少なのか需要の増加なのかは、この数字だけでは分けられない。
高齢化率の記事で、前橋の高齢化率が2050年に39.7%まで上がることを示した。高齢化は基準財政需要額を押し上げる方向に働く。分母が伸びれば、収入が横ばいでも指数は下がる。
将来負担比率の差は、何かを買った差である
将来負担比率が5市で最も高い(2024年度は高崎の1.35倍)というのは、単純に言えば過去に借りて造ったものが多いということである。この比率の主な中身は地方債の残高で、公共施設や道路の整備に使われる。
通勤流動の記事で、前橋の昼夜間人口比率が104.0であることを示した。通勤先の記事では周辺自治体すべてから受け入れ超過であることも見た。上場企業の記事では県内2つの地銀の本店がどちらも前橋にあることを示している。
県庁所在地として、市民以外も使う機能を持つ。それを支える施設への投資が、負担として残っている可能性はある。ただしこの数字からは、何に使ったかは分からない。目的別の歳出や施設の内訳を見る必要がある。
その内訳は、その後の記事で扱った。
歳出の記事では、1人当たりで高崎と差がつくのが公債費1.20倍であることを示している。2022年度に1.33倍あった普通建設事業費は、2024年度は0.99倍でほぼ同じになった。過去に造った分の返済が残っている構造である。
入ってくる側は歳入の記事で見た。前橋の歳入1,590.9億円のうち地方税は34.4%で5市では3番目である。2022年度は財政力指数の順序と地方税の割合の順序が5市で完全に一致したが、2024年度は伊勢崎と前橋が入れ替わった。1人当たりでは前橋166,422円が伊勢崎150,845円を上回る。
地価の記事で、前橋の住宅地の平均がピークだった1995年から60.8%下がり、43年前より30%安いことを示した。
人口が減る前提で、この水準をどう見るか
財政指標はどれも「標準的な財政規模」を分母にしている。将来人口の記事で示したとおり、前橋の人口は2050年に18%減る推計である。人口が減れば税収が減り、分母も縮む。
地方債の残高は人口が減っても自動的には減らない。同じ借金でも、支える人が減れば比率は上がる。いまの55.5%は、いまの人口で計算した数字である。
2011年度から2015年度にかけて急改善し、2021年度以降は50%台に下がったことの意味も、ここで変わってくる。比率の低下は改善だが、人口減少で分母が縮めば、同じ残高でも比率は上がりうる。ただし将来の推計は今回のデータには含まれていない。
このデータの限界
- 2022年度までは社会・人口統計体系、2023年度と2024年度は市町村別決算状況調の値である。2022年度で両者の全項目が一致することを確かめてつないだ。
- 順位と倍率は当サイトが算出した値である。公表値ではない。
- 将来負担比率の順位は、比率が算定された799団体(2024年度)のみを対象としている。算定されない919団体を含めた順位ではない。
- 東京23区と政令市の行政区は算定対象外のため、全国の団体数は1,718である。
- 財政力指数は分子(基準財政収入額)と分母(基準財政需要額)の両方が動く。指数の変化が収入によるものか需要によるものかは、この指標だけでは分けられない。
- 将来負担比率の中身(何に使った地方債か)は、この統計からは分からない。目的別歳出や公共施設の内訳が別途必要になる。
- 普通会計決算に基づくもので、公営企業会計や第三セクターの状況は含まれる範囲が限られる。
- 市町村計としての全国・群馬県の3比率は公表されていない。全国比較は個別団体の順位で行っている。
よくある誤解
「財政力指数0.77は低い」
全国1,718団体中254位で、上位14.8%にあたります。1.0を超える不交付団体は全国で77団体しかありません。0.77は中位より明確に上の水準です。ただし1980年度の0.79は下回っています。
「将来負担比率55.5%は危険な水準」
市町村の早期健全化基準は350%です。55.5%はそこから大きく離れています。ただし県内5市では最も高く、県内35市町村でも4番目に高い点は事実です。高崎との差は2.0倍から1.35倍に縮みました。危険ではないが、県内では重いほうという位置づけになります。
「将来負担比率が下がったから財政が改善した」
2011年度から2015年度にかけて大きく改善し、2016年度から2020年度は64.6〜66.8%で横ばいでした。2021年度以降は50%台に下がり、2024年度の55.5%は2011年度以降で最も低い値です。比率の低下は改善を示しますが、何を造り何を返したかまではこの統計では分かりません。
Q&A
不交付団体とは何ですか
基準財政収入額が基準財政需要額を上回り、普通交付税を受け取らない自治体です。財政力指数が1.0を超えることが目安になります。2024年度は全国1,718団体のうち77団体でした。
桐生市はなぜ将来負担比率が出ていないのですか
将来負担額を充当可能な財源(基金など)が上回っているため、比率が算定されないからです。数値がないのは悪い状態ではなく、むしろ将来負担が実質ゼロと評価される状態です。2024年度は全国1,718団体のうち919団体が同じ扱いです。
2025年度以降の数字はいつ分かりますか
総務省「市町村別決算状況調」の公表を待つことになります。市の決算そのものは前橋市が公表しており、決算カードや財政状況資料集で確認できます。この記事では全国と横並びで比較できる形を優先し、全団体がそろった値を使いました。
歳入と歳出の内訳も分かりますか
分かります。同じ統計に歳入内訳24項目、目的別・性質別の歳出内訳、地方税、地方交付税、地方債現在高などが収録されています。この記事では3つの比率に絞りました。内訳は稿を改めて扱います。
次の更新はいつですか
年度次の統計です。2025年度分が公表され次第、更新します。
出典
- 総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」D行政基盤(統計表ID 0000020104)/e-Stat 地域統計
- 総務省「社会・人口統計体系 都道府県データ」D行政基盤(統計表ID 0000010104、全国・群馬県の値)
- 総務省「市町村別決算状況調」令和5年度・令和6年度(都市別・町村別)/総務省 地方財政状況調査関係資料
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|---|---|---|---|
| ㉞ | 前橋市の財政指標と県内主要市の比較 (1980〜2024年度) | 総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」D行政基盤(統計表ID 0000020104)、「市町村別決算状況調」 | CSVを保存 |
更新履歴
- 2026年9月24日 2024年度の決算に更新(結論を見直し)
- 2026年9月23日 関連する記事への内部リンクを追加
- 2026年9月6日 公開
