前橋の数字が示す5つの構造|100本の記事から見えたこと

このサイトは2026年8月から、前橋の数字を100本の記事で追ってきた。人口、仕事、家計、施設。1本ずつでは断片だが、並べると形が見えてくる。

この記事では、100本から読み取れた5つの構造をまとめる。

失っているのは20〜24歳だけ。しかも待遇では説明がつかない。

事業用の投資は3つの統計で同じ方向を指している。

生活は成立している。ただし備えは薄い。

この記事について

新しいデータは扱わない。すべて既存の記事で示した数値である。各項目から元の記事にリンクしているので、出典や算出の方法はそちらで確認できる。

最後の節だけは、当サイトの見方である。事実ではなく解釈として読んでいただきたい。

1. 待遇では説明がつかない

20〜24歳の3つの数字。非正規比率は前橋29.3%・全国40.4%、年収差は449.7万円と471.8万円、それでも486人が転出超過
20〜24歳をめぐる3つの数字

人口の記事で、前橋が2025年に96人の転入超過だったことを示した。年齢別に見ると、失っているのは20〜24歳だけである。日本人で486人の転出超過。65歳以上は329人の転入超過だった。

理由を待遇に求めると、数字が合わない。

若年層の記事で、20〜24歳の非正規比率が前橋29.3%・全国40.4%で11.1ポイント低いことを示した。賃金の記事では、この年代の年収差が東京と年28.6万円しかなかった。

働き口の質も、収入も、そこまで悪くない。それでも出ていく。

大学の記事に手がかりがある。群馬の高校を出て大学に進んだ8,867人のうち、県内進学は34.6%。全国43.8%を9.2ポイント下回る。県外に出た5,802人の73.7%が首都圏だった。

進学で出て、そのまま戻らない。ただし卒業後の行き先を追える統計はなく、これは推測にとどまる。

2. 事業用の投資が少ない

比較対象を100としたときの前橋市。設備投資59、事業所の新設率90、非居住用の着工84でいずれも下回る
事業用の投資に関する3つの指標

別々の統計が、同じ方向を指している。

設備投資の記事で、売上に占める設備投資が2.06%で県内5市の最下位だった。全国3.47%の59%である。

事業所の記事では、5年間の新設率20.9%が全国23.3%を2.4ポイント下回った。ただし廃業率26.4%は全国27.4%より低い。減っているのは、なくなるからではなく、始まらないからである。

建築物の記事では、非居住用の着工が1人当たり0.299㎡。高崎0.369㎡の81%、太田1.071㎡の28%だった(2021〜2025年の年平均)。

地価の記事も同じ向きを示す。住宅地は高崎の88%だが、商業地は51%。商売をする場所としての評価に、大きな差がある。

4つは別々の統計であり、同じ現象を4回数えたわけではない。ただし向きが揃っていることは確かである。

3. 生活は成立している

暮らしの側を見ると、印象が変わる。

持ち家率 68.6% 15年で+5.9pt(全国は−0.3pt)
世帯の手取りの差 3,633円 東京との月額の差
差し引き残る額 +14.5万円 前橋のほうが年で多い

東京との比較の記事が、この構造を最もよく示している。個人の年収は東京が183.5万円高い。ところが世帯の可処分所得は月3,633円しか違わない。有業人員が前橋1.97人・東京1.87人だからである。

消費支出は東京が15,752円多い。差し引きで前橋のほうが年14.5万円多く残る。

地価の記事で、住宅地が43年前より30%安いことを示した。持ち家の記事では持ち家率が15年で5.9ポイント上がり、全国が0.3ポイント下がるなかで逆を向いている。

住まいの記事では、持ち家が借家の2.54倍の広さだった。車の記事では、通勤・通学の76.4%が自家用車である。

土地が安く、車があり、家を建てる。この形は、いまのところ成立している。

4. 備えは薄い

前橋市の6つの数字。2050年の高齢化率39.7%、段差のない持ち家26.6%、耐震診断8.75%、下水道の経費回収率76.4%、水道管の更新に159年、消防団員-27.1%
備えに関する6つの数字

高齢化率の記事で、2050年に39.7%になる推計を示した。上がる理由は高齢者が増えるからではない。15〜64歳が28.4%減るからである。

住宅の側は追いついていない。住まいの記事で、段差のない屋内が持ち家26.6%・借家13.6%であることを示した。4軒に3軒は段差がある。耐震診断を受けた持ち家は8.75%で、全国12.01%を下回る。

インフラも同じである。上下水道の記事で、下水道の経費回収率76.4%が県内5市で最下位、5年で6.9ポイント悪化したことを示した。水道管の更新率0.63%は、全部を入れ替えるのに159年かかる計算になる。

担い手も減る。防災の記事で、群馬の消防団員が49年で27.1%減ったことを示した。職員は72.3%増えているが、団員は地域に住み、平時は別の仕事をしている人である。

財政の記事では、将来負担比率55.5%が県内5市で最も高かった(2024年度。高崎41.0、太田25.6、伊勢崎7.9)。

5. 数字は、見る角度で逆を向く

100本を書くなかで、繰り返し出てきた形がある。

テーマ一方の見方もう一方
労働災害度数率は47都道府県中37位で少ない労災保険の給付は全国より11.8%多い
設備投資ソフトウェア投資は高崎の4.23倍売上に占める割合は5市で最下位
観光入込客数は県内35市町村で1位宿泊率6.5%は県計の半分
図書館18館は県内最多1館当たりの貸出は高崎の29%
持ち家負債に占める住宅の割合は県より低い勤労者世帯に限ると県より高い

どちらも正しい数字である。違うのは、何を数えているかだった。

労働災害の度数率は事業所規模100人以上が対象で、事業所の記事によれば前橋では188所・全体の1.26%にすぎない。設備投資は本社の所在地に全社分が計上される。図書館は18館に分散しているから、1館は小さくなる。

割合が動いたときも同じである。高齢化率が上がるのは高齢者が増えるからではなく現役が減るから、消防費の割合が下がるのは消防費が減ったからではなく歳出が増えたから。

分子と分母のどちらが動いたか。何を数えた数字か。この2つを確かめないと、答えを取り違える。

この数字は何を問うているか

ここから先は当サイトの見方である。統計から直接導かれるものではなく、解釈として読んでいただきたい。

「待遇を上げれば戻る」という前提を、いったん外す

20〜24歳の非正規比率は全国より11.1ポイント低く、年収差も28.6万円しかない。この2つが改善しても、流出が止まるとは限らない。

県内進学率34.6%という数字は、18歳の時点で多くが県外に出ることを示している。そこから戻る理由をどう作るかは、賃金とは別の問いである。

ただし当サイトは、その答えを持っていない。卒業後の行き先を追える統計がないことが、そもそもの壁になっている。

「新しく始まらない」ことの重さ

廃業率は全国より低い。事業所が減っているのは、新設が少ないからだった。

この構図は、支援の向き先を変える。いまある事業を守ることと、新しく始める人を増やすことは、別の政策である。

設備投資も着工も商業地の地価も、同じ方向を指していた。4つの統計が偶然に揃う確率は、それほど高くない。

順序の問題

生活は成立している。ただし備えは薄い。この2つは矛盾していない。

土地が安く家が建つ環境は、いまの世代には有利に働く。その家に段差があり、水道管が古く、消防団員が減っていることの影響は、あとから来る。

下水道の経費回収率が5年で6.9ポイント下がったのは、料金が2020年以降据え置かれているからでもある。いまの負担を抑えれば、将来の負担が増える。

数字を確かめる習慣

100本のうち、当初の見立てと違う結論になった記事がいくつもあった。

「群馬は労働時間が長いから災害も多いはず」→ 度数率は全国より低かった。
「前橋はIT投資が進んでいる」→ 本社があるから多く見えていた。
「前橋は小さい会社が多い」→ 規模の分布は全国とほぼ同じだった。

印象で語られることの多くは、数字で確かめられる。そして確かめると、違っていることがある。

それがこのサイトを続ける理由である。

このまとめの限界

  • この記事に新しいデータはない。すべて既存の記事で示した数値で、出典と算出の方法は各記事で確認できる。
  • 年次が揃っていない。2020年の国勢調査、2021年の経済センサス、2024年の決算など、調査によって時点が異なる。
  • 5つの構造は、当サイトが100本を読み返して整理したものである。他の切り口もありうる。
  • 4つの統計が同じ方向を指していることと、それらに因果関係があることは別である。この記事では因果を主張していない。
  • 「この数字は何を問うているか」の節は当サイトの解釈であり、統計から直接導かれるものではない。
  • 前橋市の政策や施策の内容は、この記事では扱っていない。数字がどう動いたかだけを見ている。
  • 100本のうち、扱えなかったテーマも多い。市区町村別の統計が存在しない領域は、そもそも記事にできていない。

Q&A

どの記事から読めばいいですか

この記事が入口になります。気になった項目から元の記事に進んでください。カテゴリ別には前橋のいま(49本)、ヒト(13本)、モノ(9本)、カネ(16本)、情報(文化・芸術)(7本)、テーマ別まとめ(6本)に分かれています。

データは使えますか

記事で使ったデータはデータベースでCSVとして配布しています。ライセンスはCC BY 4.0です。2026年9月時点で103件あります。

統計用語が分かりません

前橋用語辞典に39項目をまとめています。特化係数、可処分所得、経費回収率など、記事で使う言葉を解説しています。

この記事は更新されますか

記事が増えれば構造の見え方も変わります。大きく変わった時点で更新します。

出典

この記事で参照した数値の出典は、リンク先の各記事に記載しています。主な調査は次のとおりです。

  • 総務省「国勢調査」「就業構造基本調査」「住宅・土地統計調査」「経済センサス」「社会・人口統計体系」「住民基本台帳人口移動報告」「経営比較分析表」
  • 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」「毎月勤労統計調査」
  • 国土交通省「建築着工統計調査」「地価公示」
  • 文部科学省「学校基本調査」/国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」/群馬県「観光入込客統計調査」

更新履歴

  • 2026年9月22日 記事数を85本・配布データを88件に更新。分野「情報(歴史・文化)」を追加
  • 2026年9月21日 記事数を82本・配布データを85件に更新。タイトルから年月を外した
  • 2026年9月18日 記事数と配布データ数を更新(70本・78件)
  • 2026年9月14日 公開(記事60本の時点)