介護の記事で、前橋の要介護認定率が全国より低いのに重度の割合は高いことを示した。高齢化率の記事では2050年に39.7%まで上がる見通しも見た。
それを支える医療体制はどうなっているのか。
病院も病床も診療所も、全国とそれほど変わらなかった。ただし1つだけ違った。
前橋市の人口10万人当たり医師数は497.7人(2024年)。全国279.7人の1.78倍、高崎市250.8人の1.98倍。
群馬県の医師の33.4%が前橋市にいる。人口シェアは17.2%なので、約2倍の集中である。
ところが病床は全国の1.11倍、診療所は1.22倍。突出しているのは医師だけだった。
対象範囲
総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」I健康・医療による。合併の影響を除くため、廃置分合処理済版(統計表ID 0000020209)を使った。全国と群馬県は都道府県データ(統計表ID 0000010109)から取った。
医師数・歯科医師数・薬剤師数は2年おきの調査で、最新は2024年である。2024年の値は厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」の市区町村別の表から取った。2022年の値を同じ種類の表から取り直し、社会・人口統計体系の値と一致することを確かめている。病院数・病床数・診療所数は年度次で最新は2023年度。平均余命は5年おきで2010・2015・2020年の3時点しかない。
薬剤師と歯科医師については別の記事で詳しく扱った。薬剤師1.10倍・歯科医師1.01倍で、いずれも医師の1.78倍とは水準が違う。
人口10万人当たりの値、県内シェア、順位は当サイトが算出した。公表値ではない。人口は住民基本台帳人口を使った。
医療は市域を超えて提供されるため、都道府県は二次医療圏という単位で医療計画を立てる。群馬県は10の医療圏に分かれており、前橋医療圏は前橋市だけで構成されている。高崎市は安中市と、伊勢崎市は玉村町と、太田市は館林市などと、桐生市はみどり市と同じ医療圏になる。市の数字がそのまま医療圏の数字になるのは前橋だけである。
なお市区町村別には看護師数の項目がない。この記事では扱っていない。
突出しているのは医師だけ
前橋市の医療資源を、人口10万人当たりで全国と比べる。

病院病床数は1.11倍、一般診療所は1.22倍、歯科診療所は1.12倍。いずれも全国並みである。
医師数だけが1.78倍になる。497.7人に対して全国279.7人である(2022年は472.6人・全国273.7人で1.73倍)。
実数で見ると、前橋市の病院は20施設・病床4,365床、一般診療所340・歯科診療所201、医師1,638人・歯科医師278人・薬剤師961人(2023〜2024年)。
県内で見ると、差はもっと大きい
県内の主要5市と並べる。

前橋497.7人に対し、高崎250.8人、桐生208.5人、伊勢崎199.4人、太田195.4人。2位の高崎とも1.98倍の差がある。2022年の2.07倍からは縮んだが、2倍近い開きは変わらない。
そして群馬県全体は257.3人で、全国279.7人を下回る。県として医師が多いわけではない。前橋だけが突出している。
群馬県の医師4,910人のうち、前橋市に1,638人。33.4%が集まっている。前橋市の人口は県の17.2%なので、およそ2倍の密度になる。
この集中は、40年前からある
いつからこうなったのか。医師数は1984年から2年おきに取れる。

医師数は1984年969人から2024年1,638人へ、69.0%増えた。2016年の1,581人のあとは1,570〜1,580人台で横ばいだったが、2024年は1,638人で過去最多になった。
県に占める割合は1984年36.3%、1990年32.2%、2000年33.3%、2022年33.7%、2024年33.4%。40年間、30%台前半で動いていない。
医師の集中は近年進んだ現象ではない。ずっとこうだった。
この数字をどう読むか
ここから先は解釈である。事実は上に書いたとおりで、以下はこの数字を前橋の他のデータと重ねたときに何が言えるかという話になる。
群馬大学医学部附属病院の存在
医師だけが突出し、病床や診療所は全国並みという構図には、説明がつく。
群馬大学医学部附属病院は前橋市にある。病床数は731床で、前橋市の病院病床4,365床の16.7%にあたる。27の診療科があり、職員は約1,700人である(群馬大学「大学概要2025」)。
大学病院は、病床数に比べて医師が多い。診療だけでなく教育と研究を担い、専門分化した診療科を持つためである。医師が病床の割に多いという前橋の特徴は、この構造と整合する。
ただし附属病院単独の医師数は公表されていない。1,638人のうち何人が附属病院の医師かは、この統計からは分からない。
「医師が多い」は「かかりやすい」とは限らない
医師数が全国の1.78倍でも、市民が受診しやすいかは別の話である。
大学病院の医師の多くは高度な専門医療に従事し、紹介状なしの外来を受けにくい。一方で日常の受診は診療所が担うが、前橋の一般診療所は全国の1.22倍にとどまる。
通勤流動の記事で前橋の昼夜間人口比率が104.0であることを示した。通勤先の記事では周辺自治体すべてから受け入れ超過だった。医療も同じように、周辺から患者を受け入れている可能性がある。
ただし患者の流入は、この統計からは分からない。医師1,638人が前橋市民だけを診ているわけではない。
平均余命は県内で上位にある
結果の側も見ておく。2020年の平均余命は前橋市で男81.70年、女87.60年。群馬県35市町村のうち男は2位、女は3位である。
男の1位は吉岡町81.90年、女の1位は川場村87.80年。県内他市は高崎が男13位・女4位、伊勢崎が男30位・女24位、太田が男31位・女34位。桐生は男が35位で最下位だった。
介護の記事で、桐生の要介護認定率21.59%が5市で最も高いことを示した。平均余命の順位とも整合している。
ただし平均余命と医師密度の関係は、この数字からは確かめられない。吉岡町も川場村も、医師が多い自治体ではない。所得、生活習慣、産業構造など、多くの要因が関わる。
前橋医療圏が市単独であることの意味
群馬県の10の二次医療圏のうち、1市だけで構成されるのは前橋医療圏だけである。
医療圏は病床の配分を決める単位でもある。市域内で医療が完結する前提になっているとも、市域内に十分な資源があるから単独で成立するとも読める。
上場企業の記事で、県内2つの地銀の本店がどちらも前橋にあることを示した。財政の記事では県庁所在地としての機能にも触れた。医療でも同じ構図が出ている。県庁所在地に集まる機能の1つとして、医師がある。
このデータの限界
- 人口10万人当たりの値、県内シェア、倍率は当サイトが算出したものである。公表値ではない。
- 医師数は2年おきの調査で最新は2024年、施設は年度次で最新は2023年度である。図によって年が異なる。
- 市区町村別に看護師数の項目はない。県は19,868人、全国は1,311,687人(2022年)である。
- 診療科別の内訳は二次医療圏が最小単位である。前橋医療圏は前橋市単独なので実質的に市の数字として使えるが、この記事では扱っていない。
- 群馬大学医学部附属病院単独の医師数は公表されていない。前橋市の医師1,638人のうち何人が附属病院かは分からない。
- 市外から通院する患者の数は、この統計からは分からない。医師数は勤務地でカウントされる。
- 平均余命は5年おきで、2010・2015・2020年の3時点しかない。
- 平均余命と医師密度の関係は確かめられない。多くの要因が関わる。
- 人口シェアは住民基本台帳人口の総数(外国人を含む)を分母とした。医師数は国籍を問わない全数のため、分母もそろえている。
よくある誤解
「群馬は医師が多い県」
群馬県全体の人口10万人当たり医師数は257.3人で、全国279.7人を下回ります(2024年)。他の4市は2024年に4市とも195人以上になりましたが、最も多い高崎でも250.8人で全国に届きません。多いのは前橋市だけです。
「前橋は医療が充実している」
医師数は全国の1.78倍ですが、病床は1.11倍、一般診療所は1.22倍で全国並みです。医師の多さが日常の受診しやすさに直結するとは限りません。
「最近、前橋に医師が集まってきた」
群馬県に占める割合は1984年36.3%、2024年33.4%で、40年間30%台前半のまま動いていません。近年進んだ現象ではありません。
Q&A
二次医療圏とは何ですか
一般的な入院医療を提供する地域の単位で、都道府県が医療計画で定めます。病床数の配分もこの単位で行われます。群馬県は前橋・渋川・伊勢崎・高崎安中・藤岡・富岡・吾妻・沼田・桐生・太田館林の10圏域です。前橋医療圏は前橋市単独で構成されています。
診療科別のデータはありますか
あります。医療施設調査に二次医療圏別の診療科目別データがあり、前橋医療圏は前橋市単独なので実質的に市の数字として使えます。この記事では扱っていません。
病院ごとの病床数は分かりますか
分かります。群馬県が公表している病床機能報告制度の集計結果に、医療機関ごとの病床の状況が載っています。前橋保健医療圏の個票も公開されています。診療科や診療日から医療機関を探すには、群馬県の【医療機関検索】医療情報ネット(ナビィ)のページが使えます。
看護師数は分かりますか
市区町村別では分かりません。この統計に看護師数の項目がないためです。都道府県別なら取れ、群馬県は19,868人(2022年)です。
次の更新はいつですか
医師数は2年おきの調査で、次回は2026年分となります。施設数は年度次です。平均余命は5年おきで、次回は2025年分となります。
出典
- 厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」医師 第22表・歯科医師 第22表・薬剤師 第14表(主たる従業地による二次医療圏、市区町村)/e-Stat
- 総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」I健康・医療 廃置分合処理済(統計表ID 0000020209)、都道府県データ(統計表ID 0000010109)/e-Stat 地域統計
- 群馬大学「大学概要2025」資料編(附属病院の病床数)/群馬大学医学部附属病院
- 群馬県「第8次群馬県保健医療計画」(二次医療圏の区分)/群馬県
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| ㊷ | 県内5市・群馬県・全国の医療資源 医師数は1984〜2024年、施設は2023年度まで | 総務省「社会・人口統計体系」I健康・医療 廃置分合処理済(統計表ID 0000020209・0000010109)、2024年の医師・歯科医師・薬剤師は厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」 | CSVを保存 |
更新履歴
- 2026年9月24日 2024年の医師・歯科医師・薬剤師統計に更新
- 2026年9月22日 公式窓口へのリンクを追加
- 2026年9月8日 公開
